海外の圧力容器に関する規格は何がある?(その2)

前回の記事ではASME Boiler & Pressure Vessel Codeについて説明しました。
今回の記事ではその他の圧力容器に関する海外の規格についてまとめます。
種類が非常に多いので、細かな内容については触れません(内容までは知らないものも多いので触れられない…)が、ざっくりとどのような規格があるのかを押えていただけるかと思います。

API規格

API規格はAmerican Petroleum Institute(米国石油学会)が定めた規格であり、その中で圧力容器に関係するものも規定されています。石油業界でよく利用されるFlat Bottom Tankの規格があるのが特徴でしょうか。他にもFFS(Fitness for Service:供用適性評価)に関して記されているのも特徴です。FFSについてはまた別の記事でまとめたいと思います。

API 579/ASME FFS-1 Fitness for Service : API 579は、軽微な損傷を受けた機器が、交換、修理、または定格圧力を下げることなく運転できる場合の明確なガイドラインを示しています。API 579のFFS評価技術では、亀裂、局部腐食、へこみ、クリープ、ブリスター、溶接ミスアライメント、シェル歪み、水素損傷、火災損傷など、さまざまな種類の損傷をカバーしています。
API 650 Welded Flat-Bottomed Vertical Storage Tank : 平底垂直貯蔵タンクの米国規格です。設計、製造、溶接、検査、および設置要件について規定しています。

ASTM規格

ASTM規格はAmerican Society for Testing and Materials International(米国材料試験協会)が定めた規格で工業材料や試験方法に関する国際規格です。ASTMに規定されている材料のうちASME規格材と同一(Identical)とするとされている材料については使用することができます。
その他、ASTMの試験に関する規定について、ASMEは度々引用しています。

TEMA規格

TEMA規格は米国のシェル&チューブ型熱交換器(多管式熱交換器)の製造業者の協会であるTEMA(Tubular Exchanger Manufacturers Association)が策定した規格です。シェル&チューブ型熱交換器の規格として広く世界で受け入れられています。
TEMAでは熱交換器の機械的設計、プロセス設計、製造、検査に関して詳細に記載されています。また、多管式熱交換器はその両端の形状によって様々な構造を取り得ます。その分類もTEMAにて規定されています。

GB規格

GB規格は中国国家標準規格です。中国に設置する圧力容器のうち設計圧力35MPa以下のものに適用されます。中国政府に許可されたメーカーでの製作が義務付けられており、製作には中国政府が発行するライセンスの保有が必要です。

KGS

KGSは韓国ガス安全公社(Korea Gas Safety Corporation)が定めた規定で、韓国に圧力容器を設置する場合にKGSが定める安全基準を満たしてみる必要があります。KGSにより認められたメーカーでの製作が義務付けられており、製作にはKGSの発行するライセンスの保有が必要です。MPa単位で表した設計圧力とm3単位で表した容積を乗じた値が0.004を超える圧力容器がKGSの適用の対象です。

MOM

MOM(Ministry of Manpower)はシンガポールの労働者を災害の危険から守るための規則です。日本の労働安全衛生法に相当します。シンガポール向けの内部に圧力を保持するすべての容器が規定の対象となります。設計・材料規格はASMEまたはBSI(英国規格)のみ認められています。第三者機関による検査は、設計審査、材料確認、外観寸法検査、耐圧検査などが実施されます。

DOSH

DOSH(Department of Occupational Safety and Health)はマレーシア向けの圧力容器に関する規定で、Factory and Machinery Act1967に基づいた検査が要求されます。マレーシア向けの圧力容器のうち、大気圧以上の圧力でガスを貯蔵する容器に適用されます。設計・材料規格はASMEまたはBSI(英国規格)のみ認められます。第三者機関による検査は、設計審査、材料確認、非破壊検査、耐圧検査などが実施されます。

PED

PED(Pressure Equipment Directive:圧力機器指令)は欧州ECマーキングで定められており、圧力機器の設計・製造について規定しています。PEDの対象となる圧力機器は、EU圏内向けの圧力容器のうち、最高許容圧力が0.5bar(0.05MPa)を超えるものです。なお、ドイツなど一部のEU加盟国では独自の規格を制定しており、そちらにも対応する必要があります。

ASCE/SEI-7

ASCE/SEI-7はASCE(American Society of Civil Engineers:米国土木学会)が定めた規格で、圧力容器の設計においては、米国向けの機器での耐震計算や耐風計算を行う際に使用されます。背の高い機器や高所に設置する機器などは、地震や風の影響を大きく受けますので、それらを考慮した設計が必要になります。ASCEは米国の土木学会であり、これまでの地震の記録や、地盤のデータなどの知見を保有しています。それらに基づいた地震荷重や風荷重などの設計荷重求める手法が記されております。

WRC107/537, WRC298, WRC497

WRC(Welding Research Council)は溶接と圧力容器技術に関連する問題の解決に取り組む科学研究法人です。WRCが発行するBulletineの中で外力に対するノズルの強度検討のやり方などを示したものがあります。圧力容器のノズルには配管が接続されることが多いですが、それらは往々にして温度が大気の温度とは異なります。つまり温度変化による熱伸び(または収縮)があり、それに起因する荷重がノズルには作用してしまいます。その作用する荷重にノズルまたは圧力容器は耐えられるのかを評価する手段としてWRCが用いられます。

ALPEMA

ALPEMA(Aluminum Plate Fin Exchanger Manufacturers Association
)はろう付けアルミニウムプレートフィン熱交換器製造業者協会であり、本協会はろう付けアルミニウムプレートフィン熱交換器(BAHX:Brazed Aluminum Heat Exchanger)の設計・製造・検査などに関する基準を設けています。

まとめ

今回の記事では海外の圧力容器に関する規格をまとめました。海外向けの圧力容器を設計するに当たっては、ローカルな法規への対応が避けては通れなくなります。すべての内容を熟知する必要はありませんが、どのような機器が対象になるのかは押さえておきましょう。

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まとめ
  • API : Flat Bottom TankやFFSについて規定
  • ASTM : 米国の材料の規格。一部はASMEでも使用可能
  • TEMA : 多管式熱交換器の規格
  • GB : 中国向けの設計圧力35MPa以下の圧力容器が対象
  • KGS : 韓国向けの容器のうち、設計圧力(MPa)×容積(m3)が0.004を超えるものが対象
  • MOM : シンガポール向けの圧力容器が対象
  • DOSH : マレーシア向けの圧力容器が対象
  • PED : EU圏内向けの圧力容器のうち最高許容圧力が0.5barを超えるものが対象
  • ASCE/SEI-7 : 米国土木学会が定める地震や風による設計荷重を求める際に用いる
  • WRC : 配管外力に対するノズルや圧力容器の強度を評価する際に用いる
  • ALPEMA : ろう付けアルミニウムプレートフィン熱交換器の設計・製造・検査に関する規格

 ASME Boiler & Pressure Vessel Codeについてはこちら

海外の圧力容器に関する規格は何がある?(その1)

国内の規格・法規についてはこちら

日本国内における圧力容器の法規・規格とは?

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