鏡板の計算はどうやってやる?

今回は鏡板の計算のやり方について紹介したいと思います。鏡板は円筒胴と同じく圧力容器の主要な構成部材の一つですので、計算の仕方は必ず押さえておきたいところです。円筒胴の計算の仕方の紹介の際と同じく、JISに基づいた計算の仕方を紹介いたします。ASMEも考え方は同様です。

▼円筒胴の計算の仕方については以下を参照ください。

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鏡板の計算の式

鏡板の必要板厚を求める計算式はJIS B 8265 附属書Eに記されております。鏡板の形状により計算式は異なり、以下の通りとなります。

半楕円鏡板


P : 設計圧力(MPa),    D : 半だ円鏡板のだ円の内長径(mm),  
σa : 設計温度における材料の許容引張応力(MPa),   η : 溶接接手効率
Kの値は以下の式によります。


皿型鏡板


P : 設計圧力(MPa),    D : 皿型鏡板のフランジ部内径(mm),  
σa : 設計温度における材料の許容引張応力(MPa),   η : 溶接接手効率
Mの値は以下の式によります。


半球型鏡板




P : 設計圧力(MPa),    Di : 半球型鏡板の内径(mm),  
σa : 設計温度における材料の許容引張応力(MPa),   η : 溶接接手効率


次のようなケースで計算の仕方を見てみましょう。
Fig.1 検討ケース
(検討ケース)
・本体設計圧力:1.0MPa
・本体内径:2000mm
・材質:SUS304
・ジャケット部設計圧力:-0.1MPa
・鏡板形式:10%皿型鏡板
本体部には比重0.9の液体が満たされており、温度は220℃とする。

設計圧力の考え方

設計圧力の考え方は基本的に円筒胴と同じで、外部に作用する負圧液頭圧を考慮する必要があります。考え方の詳細は以下のページを参照ください。ジャケットの負圧0.10MPaと下部鏡板に作用する液頭圧を考慮します。下部鏡板に作用する液の高さは2388mmであるから、液頭圧は以下の通りとなります。

P= ρgh × 10-6 =0.9 × 9.80665 × 2388 × 10-6 = 0.021 MPa


したがって、設計圧力は液頭圧とジャケットに作用する負圧を考慮して、

P = 1.0 + 0.021 + 0.1 = 1.121 MPa

許容引張応力の考え方

半球型鏡板の許容引張応力の考え方は、円筒胴の場合と同様です。すなわち材料の設計温度での許容引張応力の値をJIS B 8265の表B.1~4より参照して求めることができます。一方で、Kの値が1を超える半だ円鏡板や10%皿型鏡板の許容引張応力は、円筒胴の計算の場合とはやや異なります。以下で場合分けして順番に見ていきます。

①材料規格の引張強さが482N/mm2以下の場合
円筒胴の場合と同様に、JIS B 8265の表B.1~4から設計温度における許容引張応力を参照して用います。

②材料規格の引張強さが482N/mm2を超える材料の場合で、設計温度が40℃以下の場合
許容引張応力は138N/mm2とする。

③材料規格の引張強さが482N/mm2を超える材料の場合で、設計温度が40℃を超える場合
許容引張応力は138N/mm2に表B1~4に示された設計温度での許容引張応力の40℃での許容引張応力に対する比を乗じた値とする。

まとめると以下の表のようになります。

鏡板の種類
備考
材料規格の引張強さ
許容引張応力
設計温度が40℃以下設計温度が40℃を超える
半球型鏡板-制約なしJIS B 8265 表B.1~4による
半だ円鏡板
K値が1以下制約なしJIS B 8265 表B.1~4による
K値が1を超える
482N/mm2以下JIS B 8265 表B.1~4による
482N/mm2を超える138N/mm2138N/mm2 x (応力比)
皿型鏡板
-
482N/mm2以下JIS B 8265 表B.1~4による
482N/mm2を超える138N/mm2138N/mm2 x (応力比)

さて、今回の検討ケースの場合は、どうなるか考えてみましょう。
今回のケースでは鏡板の形状は皿型鏡板で、材料はSUS304です。SUS304の材料規格の引張強さは520N/mm2であり、かつ設計温度は220℃であるため、138N/mm2に応力比を乗じた値を許容引張応力として用いることとなります。

JIS B 8265の表B.1より、SUS304の40℃での許容引張応力は129N/mm2で、220℃での許容引張応力は線形補間により求めると、111.2N/mm2です。したがって応力比は

(応力比)=111.2 / 129 = 0.862


となります。よって求める許容引張応力は

138 x 0.862 = 118.95 ≒ 119 N/mm2

 となります。普通に表から参照した場合の値(111.2N/mm2)と比較すると、結構異なる値をとっていることが分かるかと思います。

必要板厚の計算

あとは皿型鏡板の公式に今回の条件を代入して必要板厚を算出できます。
その前に形状による係数である、M値について説明します。
定義の式に書かれた通りで、皿型鏡板の中央の球形部の内半径Rと皿型鏡板のコーナー部の内半径rによって定義される係数です。
Rとrはそれぞれ以下の条件式を満たしている必要があります。





10%皿型鏡板の場合は、これらは問題なくクリアできていますが、計算書にはこれらの条件を満たしていることを記載する方がベターかと思います。
今回のM値は以下の通りになります。





溶接接手効率は溶接の形状や放射線透過試験の有無や割合に応じて決まる係数で、鏡板が一枚の板から作られている場合(鏡板自体に溶接線がない場合)は1.0とすることができます。一方で、径が大きな鏡板の場合などは、一枚の板から鏡板を成形することが困難な場合があります。その場合は複数の板を溶接することとなりますが、その溶接線の放射線透過試験を全線実施した場合は1.0部分的に実施した場合(20%以上)の場合は0.95実施していない場合は0.7となります。今回のケースではそれほど大口径ではないので、一枚の板から成形できるものと考え、溶接接手効率は1.0とします。
以上より、皿型鏡板の公式に当てはめて必要板厚を計算すると、以下のようになります。

鏡板の板厚の選定

必要な板厚は公式を用いて求めることができました。では次に実際に使用する板の厚さを指定します。その際には腐れ代と板厚の交差を考慮する必要があります。さらに、一般に鏡板はフランジ部の加工で減肉が生じるため、その加工減肉分を考慮する必要があります。その加工減肉分をいくらほど見るかは、明確な規定はありません。今回は公称板厚の15%を減肉代と考えます。また、ステンレス鋼なため腐食はないものとし、板厚交差は加工減肉後の保証板厚(最大-15%)を指定することで加味されていることとして考慮しません。また板材の手配性も考慮すると、18mmとするのが適当でしょう。(18mm × 0.85 = 15.3mm > 14.5mm)

まとめ

今回は鏡板の内圧に対する計算の仕方を紹介しました。円筒胴の計算と比較したとき、計算式こそは当然異なりますが、設計圧力やの考え方は同じです。一方で許容引張応力の値は材料規格の引張強さが482N/mm2を超えるか否かで、考え方が変わってくるので、注意が必要です。また、鏡板はその加工の過程でどうしても減肉が生じるため、その減肉分をあらかじめ考慮に入れておく必要があります。

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まとめ
鏡板の必要板厚を求める計算式は以下の通り。
  • 圧力には液頭圧負圧を考慮する必要がある。
  • K値が1を超える半だ円鏡板と皿型鏡板で、材料規格の引張強さは482N/mm2を超える場合は、設計温度が40℃以下の場合は138N/mm240℃を超える場合は138N/mm2にJIS B 8265の表B1~4の設計温度における許容引張応力と40℃での許容引張応力の比をかけたものとする。
  • 鏡板の加工減肉を考慮して使用板厚を選定する。

 ▼円筒胴の計算の仕方については以下を参照ください。

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