海外の圧力容器に関する規格は何がある?(その1)
各規格の詳細な内容についてまでは触れておりませんが、各国がどのような規格を採用しているのかを押さえていただけるかと思います。今回はASMEについてです。
ASME Boiler & Pressure Vessel Code
ASME Boiler & Pressure Vessel Codeは(以下ASME BPVC)アメリカの機械学会であるASME(The American Society of Mechanical
Engineers)が発行する規格でボイラーや圧力容器の設計・製造に関する基準を示しています。2年に1度改定が行われます。
ASMEは世界で幅広く知れ渡っており、圧力容器の共通言語のような感じでさえあります。
日本の規格であるJIS B
8265もASMEをベースにして発展してきた歴史があります。ですので基本的な考え方はほとんど同じです。また、アメリカの規格ではありますが、タイやインドネシアなど様々な国で広く用いられています。ASMEの細かな内容の紹介はおいおいすることとして、この記事ではどのような容器にASMEが適用されるのかについて解説します。
ASME BPVCの構成
ASME BPVCは全13のSectionとCode
Caseから成っています。ここでは圧力容器の設計に関係するであろうSectionに絞ってリストアップしました。各Sectionの内容を全部覚えるのはとてもじゃないけれども無理なため、必要になった時に都度確認するので十分です。要所要所の内容を押さえておくのと、「コレコレについてはあのセクションのあの辺にのってたな~」な状態になれればGoodだと思います。
Code
CaseはASME本文で規定されていない構造や材料、検査が出てきた場合の対応を示したものです。2年に1回のASME本文の改定を待たずに、Code
Caseを発行することで、改正される要求事項を迅速に実施できるようにするための措置です。
ASME BPVC Section VIII
設計者が最も参照するSectionはASME Sec.VIIIになります。ASME
Sec.VIIIは3つのDivisionから構成されており、それぞれ以下のように区分されています。
ASME Sec.VIII Div.1 : 15psi(psiはpound-force per square
inchの略で圧力の単位。100kPa)を超える内圧または外圧を保持する容器に適用されます。Div.1は耐圧部の各パーツの計算を公式に基づいて行います。この公式に基づいて設計することを「Design
by Rule」(規格による設計)といいます。確立された計算式を使用しているため、検証が容易です。破壊モードは圧力による塑性崩壊(※1)を想定しています。そのほかの破壊モードは許容引張応力の安全係数(※2)でカバーしようというコンセプトです。
※1 塑性崩壊通常金属はある程度の荷重までに対しては弾性変形(荷重の大きさに比例して変形量が大きくなる変形で、荷重がなくなると元の状態に戻るような変形のこと)をします。これが大きな荷重がかかった時、荷重がかからなくなっても元の状態に戻らなくなります。これを塑性変形といいます。塑性変形がさらに進行すると材料は破断し、塑性崩壊に至ります。
※2 許容引張応力の安全係数材料の引張強さをある安全係数で割った値を許容引張応力としています。つまり実際はもっと強度的に持つけれども、安全を見て小さな応力で抑まるようにしましょうね、という考え方です。Div.1の安全係数は3.5です。(JIS B 8265の安全係数は4)この安全係数を小さくするほど、許容引張応力は大きくなり、よりぎりぎりを攻めた設計(すなわち板厚を薄くしたりすることが可能)となります。
ASME Sec.VIII Div.2 :
15psi(103kPa)を超える内圧または外圧を保持する容器であって、Div.1で規定されていない構造や、材料を用いた場合に、公式による設計に加えて、FEM解析(有限要素法解析)(※3)を用いて、非連続部の強度や疲労強度を手順に従って確認する必要があります。このように解析による設計を行うことを「Design
by Analysis」(解析による設計)といいます。
※3 FEM解析FEMとは有限要素法と呼ばれる解析の手法で、解析したい構造物のモデルをメッシュと呼ばれる要素で細かく分割して解析を行います。荷重と拘束条件をインプットすると、その条件下で発生する応力を算出することができます。圧力容器の解析においては、圧力に対する強度や熱応力、それらによる疲労強度の確認に用いられることが多いです。
ASME Sec.VIII Div.3 :
10000psiを超える内圧または外圧を保持する圧力容器に適用されます。Div.2の革新版的な存在であって、疲労解析に加えて破壊力学解析(※4)も必要となります。また、放射線透過検査に代えて超音波探傷試験の実施が要求されます。
※4 破壊力学解析破壊力学解析とは破壊力学の手法を用いて亀裂や欠陥のある材料において破壊現象を定量的に予測する解析です。FEMでは亀裂をそのままモデル化すると特異点となってしまい応力を評価することができません。そこで亀裂周辺の応力拡大係数やJ積分値などのパラメータを計算して材料の破壊靭性と比較して亀裂が進展するかを判断することができるというものです。
アメリカに設置する場合は第三者のAI(Authorized
Inspector)による検査を受ける必要があり、合格するとASMEの認定証が発行されます。同時にASMEに適合していることを示すU-Stampを容器や銘板に刻印することが許されるようになります。
アメリカ以外の国で設置する場合はU-Stampの要否は設置当局の要求によるところとなり、都度確認が必要です。
まとめ
今回の記事ではASMEの概要についてざっくりとまとめました。
今回は紹介しきれなかったASMEのもう少し詳細な内容などに関しても、解説する記事も作りたいと思っています。ぜひご覧いただければと思います。
まとめ
- ASME BPVCは米国機械学会が発行する規格で2年に一度改定される。
- ASME BPVCは13のSectionとCode Caseから成り、圧力容器の構造を規定しているのはASME BPVC Section VIII
- ASME Section VIIIは3つのDivisionから成り主に以下のような区分け
- ASME Sec. VIII Div. 1 : Design by Ruleが適用できる一般的な圧力容器
- ASME Sec. VIII Div. 2 : Div.1に規定のない構造や材料を用いる圧力容器
- ASME Sec. VIII Div. 3 : 10000psiを超える設計圧力の圧力容器
- 米国に設置する設計圧力10psi以上の圧力容器は強制的にASMEが適用される。第三者のAIによる確認も必要で、合格するとU-stampを機器や銘板に押印できる。
日本国内の法規に関してはこちら
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