【本の感想】カーボンニュートラル実行戦略:電化と水素

今回は最近読んだ本の紹介をしたいと思います。
今回読んだ本は、『カーボンニュートラル実行戦略:電化と水素、アンモニア』(著者:戸田 直樹/矢田部 隆志/塩沢 文朗)です。

タイトルの通り、カーボンニュートラル実現のために電化と水素、アンモニアが担う役割とその可能性について、記された一冊です。内容はややお堅い文章ですが、体系的にまとめられていて、個人的にはとてもためになりました。私のようなプラント系の会社にお勤めの方や、エネルギー関係に携わっている方々は一読の価値はあるかと思います。また、それ以外の方々にとっても、今後のエネルギーの大きな部分を担うかもしれない、新しいエネルギーについて、勉強しておくことは必ずどこかで役に立つと思います。さらには、水素・アンモニア関連の銘柄への株式投資を考えている方々にとっては、企業が新しいエネルギーの活用に向けてどのような開発を進めているのか、またどのような思惑をもって取り組んでいるのかを知るのに役立つと思います。就職活動中に学生さんにとっても、業界を丸ごと紹介されているので、競合他社も含めて研究ができるので、もってこいな一冊かと思います。
以下、ネタバレしすぎない程度に内容をご紹介します。

電化の促進

本書のテーマは「電化」と「水素・アンモニア」の大きく二つになります。両者は密接に関係しあっており、これらを両輪にして進めていくことが、カーボンニュートラルの実現にとって大きな意味を持つと、筆者は述べております。まずは「電化」について、第一章で電化の意義を、第二章で電化の具体的な取り組みについて説明しております。電気自動車(EV)に代表されるように、従来化石燃料を用いていたものを電気エネルギーに切り替える動きを電化と言います。
EVは普通のガソリン車とは違って走行時にはCO2を排出しないため、脱炭素化に貢献できます。同じように現在は化石燃料を用いている分野で、電化を進めることで、使用時の2排出を削減しようという動きが進められています。これまで脱炭素化が難しいとされていた産業分野でも取り組みが進められており、本書では以下の分野での取り組みを紹介しています。
・製鉄の脱炭素化
・石油化学産業の脱炭素化
・セメント製造の脱炭素化

製鉄の脱炭素化

製鉄分野では大量のCO2が排出されます。鉄は鉄鉱石中の酸化鉄を還元して取り出します。コークスと呼ばれる炭素の塊を還元剤として投入した高炉で、酸化鉄を高温に熱することで酸化鉄が還元されて純度の高い鉄を精製するという方法が、従来の製鉄方法です。酸化鉄を還元する際に、コークスが酸化鉄の酸素と反応して二酸化炭素が大量に放出されてしまうため、非常に環境負荷が高い産業といえますが、品質の高い鉄を供給することで、経済成長に大きく寄与してきました。
環境負荷を抑えつつ、品質も落とさない製鉄法の開発を製鉄各社は長年取り組んでおり、近年結実しようとしています。なかでも近年注目されているのが、水素還元製鉄です。水素還元製鉄とはコークスを用いた高炉での還元に水素を用いようという製鉄方法です。高炉での高温加熱への水素エネルギーの導入や、コークスに代わる石炭の還元剤として水素を活用しようと検討が進められています。日本では2050年までには石炭を使用しないCO2フリー水素による水素還元製鉄を行うことを目標としています。

水素エネルギー

水素は水を電気分解することで作ることができます。ただし、火力発電所で発電した電気で水を電気分解して水素を作ってエネルギーにしたとしても、発電時に二酸化炭素が出るので元も子もありません。つまり太陽光や風力発電など、再生可能エネルギー由来の電気で水素を作り出せば、正真正銘のカーボンフリーなエネルギーといえます。(水素の輸送時に二酸化炭素は発生しますが)ただし、日本では太陽光や風力発電に適した十分な土地がありません。一方で世界に目を向けると有り余るほどの土地と再生可能エネルギーが未利用で存在しています。これらを活用しようと、日本はいま官民挙げて取り組んでいます。「再エネ資源に豊富に恵まれた地域から再エネを大量に導入する手段」として水素を活用しようとしているのです。
水素のように再エネを運搬する手段として、おなじみの蓄電池があります。蓄電池と水素はどのような点で異なるのでしょうか。蓄電池は効率の面では優れますが、長期間の保存には適しません。(自己放電してしまう)そのため1~2日の蓄電には蓄電池が適しているとされていますが、それ以上では水素蓄電が適しているとされています。



水素エネルギーキャリアとしてのアンモニア

水素は気体のままではエネルギー密度が大変小さいです。冷却して液体にすることで体積を小さくでき、エネルギー密度を高めることができますが、水素はマイナス253℃という極低温まで冷却しないと液体になりません。そのため、液体水素を大量に輸送・貯蔵することは困難です。そこで輸送や貯蔵がしやすい形に変換したもの、すなわち水素エネルギーキャリアを利用することが検討されています。その水素エネルギーキャリアとして有望視されているものの一つが、アンモニアです。
アンモニアの分子式はNH3で、一分子の中に3つの水素原子が含まれており、水素密度は液体水素よりも高いです。また、常圧でマイナス33℃、または常温で8.5気圧で液化するため、液化水素と比べると比較的簡単に液化が可能なため、水素エネルギーキャリアにぴったりです。利用場所まで運んだのちにはNH3をクラッキング(分解)して水素を利用することができます。一方で、そういった使い方ではなく、アンモニアを分解せずにそのまま利用しようという動きも出てきています。

アンモニアの直接利用技術

アンモニアは直接燃焼時にCO2を排出しません。そのため燃料として用いると直接的に脱炭素に貢献することができます。アンモニアの燃料としての利用には「燃焼安定性」や「窒素酸化物の生成」などの技術的課題がありましたが、技術開発により、これらの課題は解決されつつあります。現在では小型ガスタービンから発電用の大型ガスタービンまで、開発が進められています。石炭火力発電所でのアンモニアの混焼が進めば、日本では年間約2000万トンCO2が削減できるとのことです。世界では依然として石炭火力発電に依存する割合は高いです。これらを生かしつつ、かつ脱炭素に一役買える技術として、今後大いに期待されるものと思われます。

まとめ・感想

本書を読んで、2050年カーボンニュートラルの実現に向けてあらゆる部門の電化が必要であることや、水素・アンモニアの活用意義について理解することができました。今回ご紹介はしていない内容でも化学プラントの蒸留プロセスやナフサの熱分解の電化など、あらゆる業界で電化が検討されていることが分かりました。海外の安価な再生可能エネルギーを利用して水素やアンモニアを作り、日本へ輸送してエネルギーとして活用を目指しており、是非頑張ってほしいです。水素は燃料電池で電気を取り出すもよし、直接燃やして使うもよしで割と使い勝手がよさそうですね。アンモニアも直接燃やしてもよし、分解して水素のキャリアーとして使うもよし。大規模な構想であるがために、国の後押しや他国との協力は不可欠なのだと思います。

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